『詩の生まれる場所』 竹村正人 第5回 便所
タバコは登録制でないと自由に購入できなくなります。未成年、不埒な子供が買えないようにするため、だそうです。「女・子供」にはますます手ひどい。けれでも、仕打ちが手ひどくなればなるほど、私たちは抜け目なくなってゆく。
―――松本真理
タバコでもいいのだけれど煙が苦手なので便所に入ることにする。入って座ると煙の夢の跡がある。臭いけれども人間は臭いものである。人間が人間になれる場所、として便所はあるのかもしれない。
ふたつのエピソードを思い出す。学校にいた時、便所でうんこがしづらかったこと。弱さをさらけ出すことへの執拗な攻撃が学校にはあった。かたや、お菓子を食べたりタバコを吸ったりするのも便所だった。教師が決して理解しなかった便所での飲食は、認められない欲望の別な成就の道だった。清潔さと汚さと、二極化する世界にあって、詩は抜け目ない者たちの便所のようであってほしい。
タダでゆける
ひとりになれる
ノゾミが果たされる、トナリの人間に
負担をかけることはない
トナリの人間から
要求されることはない
私の主張は閉めた一枚のドア。
職場と
家庭と
どちらもが
与えることと
奪うことをする、
そういうヤマとヤマの間にはさまった
谷間のような
オアシスのような
広場のような
最上のような
最低のような
場所。つとめの帰り
喫茶店で一杯のコーヒーを飲み終えると
その足でごく自然にゆく
とある新築駅の
比較的清潔な手洗所
持ち物のすべてを棚に上げ
私はいのちのあたたかさをむき出しにする。三十年働いて
いつからかそこに安楽をみつけた。(石垣りん「公共」)
* 冒頭は「イルコモンズのふた。」
http://illcomm.exblog.jp/ (2008年5月13日)より、
文末は『石垣りん詩集』(ハルキ文庫)より、それぞれ引用。
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